広東語の語彙の特徴

古語

広東語の語彙には北京語と比べて、古中国語と共通する語彙が多いようです。

 広東語 : 北京語

食 sik6 : 吃 chī (食べる)
飲 yam2 : 喝 hē (飲む)
徛、企 kei5 : 站 zhàn (立つ)
行 haang4 : 走 zǒu (歩く)
面 min6 : 臉 liǎn (顔)

チワン語との関連語

広東語にはチワン語と関連すると思われる語彙がいくつか見られます。基層となっている語彙なのか、借用語なのかは不明です。これらの多くは方言字で書かれています。

 広東語 : チワン語

啲 di1 : di (少し、もっと、割に)
曱甴 gaat6jaat2 : gaenxcaengh (ゴキブリ)
冚 kam5 : hoemq (かぶせる、覆う、蓋をする)
踎 mau1 : maeuq (しゃがむ)
啱 ngaam1 : ngamj (ちょうど良い、正しい)
呢 ni1 : neix (この)
痾 o1 : ok (排泄する)
嘥 saai1 : sai (無駄にする)

広東語の発音

広東語の音節は、他の中国語同様に声母(語頭子音)、韻母、声調に分ける事ができます。

声母
現代の香港の広東語の例では、下記の表に示す19種に加えて0声母を加えた計20種の声母があります。

子音
上記の声母に加えて、広東語の子音としては入声の音節末に見られる内破音がある。内破音には両唇(-p [p̚])、歯茎(-t [t̚] )、軟口蓋(-k [k̚])の3種があります。

さらに、非入声の音節末には両唇(-m [m])、歯茎(-n [n])、軟口蓋(-ng [ŋ])の3種の鼻音韻尾を持つものがあり、意味の弁別に使われています。

s-、j-、ch-は歯茎音で発音される場合と後部歯茎音で発音される場合があり、一般的に現在はこの違いは意味に影響しないが、20世紀前半までは意味の弁別に使われていたようです。

両唇閉鎖音
b- [p]: 無声無気両唇破裂音
p- [pʰ]: 無声有気両唇破裂音
-p [p̚]: 両唇内破音
m-, -m [m]: 両唇鼻音
f- [f]: 無声唇歯摩擦音
歯茎閉鎖音
d- [t]: 無声無気歯茎破裂音
t- [tʰ]: 無声有気歯茎破裂音
-t [t̚]: 歯茎内破音
n-, -n [n]: 歯茎鼻音
s- [s]: 無声歯茎摩擦音(または[ʃ]:無声後部歯茎摩擦音)
歯茎破擦音
j- [ts]: 無声無気歯茎破擦音 (または[tʃ]:無声無気後部歯茎破擦音)
ch- [tsʰ] : 無声有気歯茎破擦音(または[tʃʰ]:無声有気後部歯茎破擦音)
l- [l]: 歯茎側音
y- [j] 硬口蓋接近音
軟口蓋閉鎖音
g- [k]: 無声無気軟口蓋破裂音
k- [kʰ]: 無声有気軟口蓋破裂音
-k [k]: 軟口蓋内破音
円唇軟口蓋閉鎖音
gw- [kw]: 円唇無声無気軟口蓋破裂音
kw- [kʰw]: 円唇無声有気軟口蓋破裂音
ng-, -ng [ŋ]: 軟口蓋鼻音
h- [h]: 無声声門摩擦音
w- [w]: 両唇軟口蓋接近音

韻母
母音と音節末の子音の組み合わせである韻母は、50数種程度(借用語や擬音語にのみ見られる韻母などの数え方で異なる)あります。

母音に長母音と短母音の対立があるなど、タイ語群の基層が残っていると考えられます。

声調
広東語は、他の中国語と同様に声調言語であり、広州や香港の発音では平声、上声、去声、入声が陰陽(高低)各1対と、陰入声がさらに高低に分かれて増えた中促調の、計9つの声調があります。

他に、意味に違いはないが、陰平声を高平調で発音する事も多く、高平調、高昇調、高昇降調と3つの変調があるので、細かく分けると12種、または13種の声調があるとも言えるが、実際には基本的に6種類か7種類の調値を区別すればいいです。